ガルーダ健康食品代表挨拶

その男とガルーダ島

「ガルーダ島にね、行ってきたの。」
男は落ち着かない様子でそう言った。黒のスーツに山高帽、おまけにステッキまで持っている。
(チャップリンみたいな人だ。)
心の中で呟いたとき、
「でも、チョビ髭じゃないの。」
小さな声が聞こえた。男は目線を下に向けたまま、八の字型の髭を指先で整えている。

うどん屋で無銭飲食を働いた奴がいると、昼時をとうに過ぎた時間に連絡があった。それから間もなくして男はやって来た。 商店街の方針により、万引きや無銭飲食をした者はまずこの事務所に来ることになる。私の役目は、小さな子供に万引きがどんなに悪いことなのかを説明し、時には怖がらせながら再発を防ぐ、いわば説得係だ。
うなだれている男をイスに座らせ、冷たい烏龍茶を勧めた。そして落ち着いた頃を見計らい、なぜお金を持たずにうどんを食べたのかと尋ねた。
そこで返ってきたのが冒頭の「ガルーダ島」だった。

「で、それがどうかしたのですか?」
私は穏やかに言った。男は急に明るい顔になり、真っ直ぐ私の目を見ている。なにか、期待感を持っているような顔だ。
「行ったことある?」
「いえ。」
私は首を横に振った。正直なところ、ガルーダトウという場所は聞いたこともなかった。(ガルーダ塔かな、それとも島かな。)と頭の中で想像していると、男はポケットに入っていた四つ折りの紙を広げてこちら側に向けた。旅行パンフレットの1ページだ。「煌めきの島・ガルーダ島の休日」とある。

話を聞くと、どうも男は友人とその島へ行ったようだ。
「彼は僕の相棒でね、色んな国を一緒に巡っていたの。ずっと一緒で・・・。」
男は烏龍茶をひと口飲むと、話を続けた。
「今までも素晴らしいって思える風景はいっぱい見てきたよ。でもね、ガルーダ島は別格だったの。明け方になると島全体が真っ赤になるんだよ、朝焼けってやつでね。これがすごいんだ。山も海面も燃えているみたいに真っ赤になる。人はみんな親切だし、島全体が無理してないから、安心していられる。だから、彼はガルーダ島が大好きになっちゃったの。で、決めてしまったんだ、もうそこに定住するって。」

男は烏龍茶のコップをじっと見ると、ごにょごにょと、でも私に聞こえるような声で「あったかいアールグレイの方が良いな。」と言った。聞こえない振りをしていると、また静かに話し始めた。

「とても大事な友人だから、その意志を尊重することにしたの。でもね、それはつまり別々に生きることを意味する。僕はこれからもずっと旅をしなければならないからね、彼と一緒に島に住むことはできないんだ。」
ね、分かってくれる?とでも言いたげな顔でのぞき込まれた。私は軽く2回、頷いた。
「離れて過ごすことになっても、彼には不自由なくいてほしいから、スーツケースいっぱいにドライドッグフードを詰め込んでおいた。そして彼の首に財布を結びつけた。僕は航空チケットさえあればいいからね。でも、どうにもこうにもお腹がぺこぺこで・・・。」

ドッグフード。
「ご友人は・・・。」
犬かどうかを聞こうとして、言葉を飲み込んだ。目の前の男はすっかりくつろいで、帽子をうちわ代わりに扇いでいる。私はその光景をぼんやり眺めながら、しばらく休暇をとってガルーダ島へ行こうと、決めていた。


ガルーダ健康食品代表 兼 カスタマーサービス担当の ルルル・ナギラセイ です。

些細なきっかけでガルーダ島の地を踏んだのが1999年。以来、すっかりその魅力にはまっています。

思えばあの日、チャップリンのような男に出会わなければ、ガルーダ健康食品を創業することもなかったでしょう。

人生はいつだって何が起こるかわかりません。単調なようでいて、実は不安定な岩の上に絶妙なバランスを保って立っているのです。ひょんなことでもっと良い岩に移り変われるかもしれません。しかしそれは、崖下に落ちる覚悟をも必要とします。

私にとっての「ひょんなこと」は彼との出会いでした。その時に手に入れた新しい岩は居心地が良いのですけど、まだまだ腰を下ろすには早すぎます。

旅は依然続いています。
きっと“その男”もどこかを旅していることでしょう。