N.Y[4] 良き相棒

主食はプレッツェルだった。毎日毎日屋台で買うホットプレッツェルが昼食だったのだ。歩きながら食べられ、程良くお腹を満たしてくれるソイツは私の良き相棒である。そしてどこを歩いていても「さ、そろそろ何か食べようか」なんて思った時にはいつも近くにソイツはいるのだ。

屋台を見かけると私はポケットから1ドルを取り出す。そして一目散に店員の前へ行き、張り切って言う。
「ホットプレッツェル。」
店員はホカホカのプレッツェルを私に差し出す。私はそれを受け取り、まずはこの行動をおこすだろう。
「塩落とし。」
バラバラと大きな塩の粒を落としていくのだ。良き相棒が唯一持ってる短所がそれである。落とし損ねたりなんかしたら一気に砂漠気分だ。手抜きは許されない。


私は食べ物に興味がない。「うまい物を食べたい」という気持ちがないから、節約できる物として「食費」が1位に挙げられるのだ。当然食事を抜くなんて事も朝飯前である。ご飯にかける時間よりコーヒーを飲む時間を作りたいと思っている。


朝食の購入はいつも前日に済ます事に決めていた。99セントのマフィン、巨大なクッキー、小さなスコーン・・・、安くておいしそうな物を選んだつもりだ。夕食は友達になった人たちにご馳走される事が多かったが、1人で食べる時はデリでのサラダバーを愛用した。重さで値段が決まるので、手の感触を頼りになるべく軽くすませるようにした。そのいずれもがまずかった。唯一「巨大なクッキー」だけが、甘すぎるだけで残さず食べられた物だったのだ。

私は「うまい物を食べたい」という気持ちはないが「まずい物が好きだ」という訳ではない。うんざりしていた中、最後まで期待を裏切らなかったのがホットプレッツェルである。ヤツを相棒と呼んでしまう私の気持ちがこれでよく分かっただろう。


しかしソーホーで出会った相棒は少し違った。私はいつものように店員の前へ行き、いつものように相棒の名を呼んだ。店員は言う、「1ドル50セント出せ」と。いきなり高級品(?)である。私は「1.50!?」と叫んだ(今までに出会ったプレッツェルは1ドル〜1ドル25セントだったのだ。)。店員はそこであっさりと「1ドル25セントにしとくよ。」と言い放つ。「あぁ、良かった。いつもの相棒に戻ってくれたよ。」そう思い、私はお金を払った。
塩落としの儀式を済ませ、相棒にかぶりつく。幸せのひとときだ。だが、やはりこの相棒は違った。なんと私の喉にくっついてきたのである。

喉を詰まらせた私は大焦りで屋台に駆け戻った。
「ポ、ポーランドスプリング〜(ミネラルウォーター)。」

はい、2ドル50セントでご購入(涙)。※だいたい1ドル程度のもの。

どうやらこのプレッツェルは私の相棒ではなかったようである。

(Mar/26/2002)